イオン性環状シロキサン

1. 単一構造の環状テトラシロキサンの選択的合成と2次元層状集合体の形成

図1 cis-trans-cis体の環状テトラシロキサンの選択的合成および二次元層状集合体形成
図1 cis-trans-cis体の環状テトラシロキサンの選択的合成および二次元層状集合体形成

 環状シロキサンは2官能性シラン化合物の加水分解/縮合反応によって得られる化合物であり、シリコーンの原料などに用いられています。

 しかし、通常2官能性シラン化合物の加水分解/縮合反応からは、様々な分子量の環状シロキサンや直鎖状ポリマーの混合物として得られることが多く、また、異種の側鎖置換基を有する環状シロキサンには異性体が存在し、例えば環状4量体では、all-cis、all-transcis-trans-ciscis-cis-trans の 4 種類が存在します。そのため、異種の側鎖置換基を有する単一構造の環状シロキサンを、原料から一段階で高収率・高選択的に合成することは難しく、これらを合成する新規手法の開拓は学術・産業両分野において非常に重要な研究課題であると言えます。

 一方でこれまでに当研究室では、アミノ基を有する3官能性有機アルコキシシランを超強酸であるトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H or HOTf)水溶液中で加水分解/縮合反応することにより、側鎖にアミノ基を有するPOSSが、強酸である塩酸水溶液中で同様の反応を行うことにより、ラダー状PSQが得られることを見出しています。これらの結果から、超強酸水溶液中でのアミノ基含有有機アルコキシシランの加水分解/縮合反応においては、ポリマーよりも環状化合物が優先して形成されることが予想されます。

 そこで、2官能性有機アルコキシシランである3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン(APDEMS)のCF3SO3H水溶液中での加水分解/縮合反応を検討してきたところ、単一構造(cis-trans-cis)の環状テトラシロキサン(Am-CyTS)が選択的に合成できることを見出しました(図1)[1]。これは、単一構造の環状テトラシロキサンを簡便に合成する全く新しい手法になります。

 さらに、この環状テトラシロキサンはヘキサゴナル配列した2次元シート状集合体を形成し、これらのシート状集合体が積層した層構造を有していることが分かり(図1)、新たな無機層状化合物として今後の機能化が期待されます。

 

[1] S. Kinoshita, S. Watase, K. Matsukawa, and Y. Kaneko, J. Am. Chem. Soc.2015137, 5061. URL

2. イミダゾリウム塩型環状シロキサンイオン液体の合成

図2 イミダゾリウム塩型環状シロキサンイオン液体の合成
図2 イミダゾリウム塩型環状シロキサンイオン液体の合成

 イオン液体は100 °C以下(150 °C以下という定義もある)で液体として存在する塩であり、カチオンとアニオンのみから構成されます。多くのイオン液体はカチオン・アニオンのどちらか一方、あるいは両方が有機イオンから構成されており、シロキサン(Si-O-Si)結合等の無機成分を含むイオン液体の報告例はあまり多くありません(シルセスキオキサンイオン液体などに限られる)。このような無機成分を含むイオン液体は、耐熱性や難燃性の向上が予想され、より安全な電解質等への利用が期待されます。

 当研究室では、新たなシロキサン材料をベースとするイオン液体として、環状シロキサン構造を有するイオン液体の創製を検討しました。すなわち、イミダゾリウム塩含有ジアルコキシシランの超強酸溶液中での加水分解/縮合反応を検討したところ、4~6量体の環状シロキサン構造を有するイオン液体が得られることを見出しました(図2)[2]。

 例えば、超強酸触媒がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HNTf2)から得られた環状シロキサンイオン液体のDSC測定からは融点(Tm)は観測されず、−37℃付近にガラス転移点由来の吸熱ピークが観測され、0℃付近で流動性を示したことから室温イオン液体であることが確認されました。またTG測定からは5%重量減少温度(Td5)が415℃と、側鎖と同じ構造を持つイオン液体の380℃に比べ、高い熱分解温度を示すことが分かり、高耐熱性イオン液体として今後電解質やグリーンソルベントとしての利用が期待されます。

 

[2] T. Kubo, S. Koge, J. Ohshita, and Y. Kaneko, Chem. Lett.2015, 44, 1362. URL

3. 環状オリゴシロキサン構造を有するプロトン性イオン液体の合成

図3 環状オリゴシロキサン構造を有するプロトン性イオン液体の合成
図3 環状オリゴシロキサン構造を有するプロトン性イオン液体の合成

 イオン液体をプロトンの有無で分類するとプロトンが存在するプロトン性イオン液体(PIL)とプロトンが存在しない非プロトン性イオン液体(AIL)に大別されます。PILは、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の混合による中和反応によって簡便に得られ、燃料電池・リチウムイオン電池・キャパシタのための電解質や二酸化炭素吸着材料等の分野で利用されています。しかし、通常PILは高温で加熱すると中和反応の逆反応が起こり元の酸と塩基に戻るものが多く、AILよりも低温で熱分解(あるいは揮発)しやすい性質を有しています。

 一方で、耐熱性等に優れる無機骨格含有イオン液体として、オリゴシルセスキオキサン構造を有するイオン液体や2.で述べました環状オリゴシロキサン構造を有するイオン液体[2]が近年報告されるようになってきました。しかし、これまでに報告されているシロキサン骨格を有するイオン液体はいずれもAILであり、シロキサン骨格を有するPILの合成に関する報告例は知られていませんでした。

 最近我々は、1.で述べたような最終的に得られる化合物に活性プロトンを与えるようなアミノ基含有有機ジアルコキシシランを原料に、超強酸であるCF3SO3H(HOTf)を触媒に用いて加水分解/縮合反応したところ、イオン液体ではありませんが簡便に単一構造のアンモニウム基含有環状テトラシロキサンが得られることを見出しています[1]。

 当研究室では、このイオン液体にならなかったアミノ基含有有機ジアルコキシシランを原料に用いた加水分解/縮合反応の触媒をHOTfからHNTf2に代えて検討したところ、PILの性質を示すアンモニウム基含有環状オリゴシロキサンが得られることを見出しました(図3)[3]。

 

[3] T. Hirohara, T. Kai, J. Ohshita, and Y. Kaneko, RSC Adv.20177, 10575. URL

Last updated on April 4, 2017