ラダー状構造についての議論

 ここでは、PSQのラダー状構造の解析手法について述べたいと思います。Brownらの報告以来[1]、IRスペクトルで1150および1050 cm-1付近に見られるSi-O-Si結合由来の2本の吸収ピークの存在やMark-Howinkの式から剛直性鎖かどうかの議論によって、PSQのラダー状構造の形成が議論されてきました。しかし、これらの結果は直接的な証拠とは言えず、未だにPSQのラダー状構造を証明する分析法は確立されていません。

 高分子量体で分子量分布の存在するPSQでは、単結晶を作成することが難しく、多段階反応により合成された単一分子のラダー状オリゴSQで行われているような単結晶X線回折(XRD)による構造解析は[2,3]、現状ではPSQに適用できません。一方、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)などによる直接観察法は、PSQのラダー状構造の形成を証明する決定打となりえますが、測定技術の困難さから現在までのところ達成されていません。

図1 ラダー状構造を証明するための必要条件
図1 ラダー状構造を証明するための必要条件

 そこで当研究室では複数の分析手段を組み合わせた以下の証明法を提唱しています。すなわち、ラダー状構造を証明するためには、少なくとも以下の5つの条件を同時に満たす必要があると考えています:①溶媒に可溶である、②高分子量体である、③一次元構造体である、④分子の幅が狭い、⑤29Si NMRスペクトルにおいてT3ピークの割合が高い[4-6]。これらの5つの条件は図1に示していることをそれぞれ証明でき、このことから①〜⑤の条件を全て満たすPSQが得られれば、消去法でラダー状構造が形成されたと見なすことができると我々は考えています(もちろん、ラダー構造の完全な証拠(十分条件)というわけではありませんが・・・)。

図2 PSQのラダー状構造を証明するための分析結果
図2 PSQのラダー状構造を証明するための分析結果

 実際に我々らが合成したアンモニウム基含有PSQで検証してみますと(図2)[4-7]、水に可溶であり(対イオンを変換することで他の溶媒にも可溶)、Mwは1万を超える(重合度DPは約70以上)ことから、①と②の条件を満たします。また、XRDパターンよりヘキサゴナル相を示す回折ピークが観測されたことから、比較的高いアスペクト比を有する一次元ロッド状構造体であることが示唆され、回折ピークのd値より算出されたロッドの直径(分子の幅)は2 nm以下と比較的細く、これらの結果から③と④の条件も満たしています。さらに、29Si NMRスペクトルよりT3ピークの積分比が93%程度であり比較的高い割合であったことから⑤の条件も満たしています。すなわち、分子の幅が2 nm以下の限られた空間の中で、DPが70以上のPSQが高い割合でT3構造を有していることを考慮しますと、このPSQはシロキサン結合からなる8員環が一次元方向につながったラダー状構造を有していると考えるのが妥当であると考えています(ただし、ポリマーの両末端以外に全くシラノール基のない“完全な”ラダー構造である確証はありません)。

 

[1] J. F. Brown Jr. et al., J. Am. Chem. Soc., 196082, 6194.

[2] M. Unno, A. Suto, and H. Matsumoto, J. Am. Chem. Soc.2002124, 1574.

[3] K. Suyama, T. Gunji, K. Arimitsu, and Y. Abe, Organometallics, 200625, 5587. 

[4] Y. Kaneko, H. Toyodome, M. Shoiriki, and N. Iyi, Int. J. Polym. Sci.2012, 684278. URL

[5] 金子芳郎, シルセスキオキサン材料の最新技術と応用, シーエムシー, 2013, 32. URL

[6] 金子芳郎, ゾル–ゲル法の最新応用と展望, シーエムシー, 2014, 7. URL

[7] 金子芳郎, 高分子論文集(特集号=ハイブリッド高分子), 2014, 71, 443. URL